
2025年8月からスタートした受刑者が保護犬の人馴れやしつけを行う「保護犬育成プログラム」。受刑者に保護犬の育成に関わってもらうことで、責任感の醸成、自己肯定感や社会的スキルの向上につながり、社会復帰と更生を支援することを目的とし、法務省 近畿矯正管区と姫路少年刑務所と連携し実施しています。PFLJでは、これまで行ってきたドクタードッグ活動(動物介在活動)や教育活動の知識と経験を活かしながら、月一度の訪問を行っており、今年2月の訪問で7回目となりました。
元野犬かこちゃんの初参加
今回の訪問では、元野犬きこちゃんの姉妹・かこちゃんを初めて連れていきました。1月訪問時には、きこちゃんはようやくトレーニングをスタートさせることができました。訪問を重ね、環境や受刑者たちに慣れてきたことから「危険な場所・人たちではない」と判断したのか、逃げ出す様子もなく、ジッとその場で周りを観察していることが多く見られてきたきこちゃん。少しずつながら、きこちゃんの成長が見えていることから、保護犬の中でも一番怖がりのかこちゃんの初参加を決めました。

かこちゃんはきこちゃんと同じ元野犬です。成犬で保護されたため、社会化ができておらず、保護当初はお散歩どころか、首輪やリードをつけることすら難しい状態でした。(その様子はこちら)ストレスにならないよう、かこちゃんのペースに合わせ、無理なく社会化やトレーニングを行い、スタッフと距離を縮められるよう日々試行錯誤を重ねながら、信頼関係を築いていきました。
今でもスタッフでも目があうと、かこちゃんは目線を反らしたり、震えたり、オドオドと動いたり。それでも、人と一緒に歩くお散歩が大好きになり、散歩前は尻尾を振り、スタッフに甘える姿を見ることができるようになりました。一つ一つの成長は小さく、時には日常に埋もれて見落とされがちですが、かこちゃんは確かな成長を遂げています。保護犬育成プログラムを通して、かこちゃんのどんな成長がみられるのでしょうか?
行動から犬の感情を読み解く:カーミングシグナル
姫路少年刑務所に着き、車から降り、かなり緊張した様子のかこちゃん。周りを見渡しながら、きこちゃんにピッタリとくっついて、受刑者の待つ部屋に向かいます。ウキウキと嬉しそうなリコちゃん、ヨーゼフくん、そして、笑顔のルカくんも一緒です。部屋に入ると、ルカくんは自ら座っている受刑者や刑務官の方々に挨拶に向かいました。尻尾を振ってご挨拶している姿から、ルカくんが人や場所に慣れ、安心している様子が伺えます。

第7回のテーマは「カーミングシグナル」、直訳すると「落ち着かせるサイン」です。
Calming(カーミング) = 落ち着かせる
Signal (シグナル) = 信号、サイン
カーミングシグナルとは、犬が緊張や不安を和らげるためのボディーランゲージです。カーミングシグナルによって、相手や自分を落ち着かせたり、敵意がないことを示したり、不安や不快感を伝えることができ、自分以外の争いをやめさせる役割を担っています。代表的なカーミングシグナルは、「あくび」「鼻を舐める」「身体を横に向ける」「身体をかく」「身体を震わせる(ブルブル)」です。

犬のあくびをする姿を想像できる方も多いと思いますが、あくびは眠い時だけでなく緊張やストレスを感じた時にも行います。あくびをすることによって、自分や相手を落ち着かせようとしているのです。また、犬が、「身体を横に向ける」ことは、犬同士で遊んでいる最中や初めての人に会ったとき、敵意がないことを示しています。6回目の訪問時に、初めて会った受刑者に対して、リコちゃんがとっていたポーズです。
このように、カーミングシグナルは犬たちの日常生活のあちらこちらに見られ、カーミングシグナルを理解することは、犬たちが何を考えているのか、犬たちの心を読み解く一つのヒントになります。状況に合わせて読み解いていくと、犬がどんなことを考えているのかより深い理解へとつながるのです。講義では、写真と共にカーミングシグナルについて説明し、トレーニング中の保護犬たちの動きやカーミングシグナルに意識を向け、より理解を深めることを重視して取り組んでいただきました。

基礎の反復練習
椅子を動かし、水やペットシーツ、フードポーチの準備を整え、トレーニング開始です。アイコンタクト・ハンドターゲット・オスワリ・ふせ・オテ・ツイスト(犬が時計回りに回る)など基礎的なトレーニングを行います。毎回同じような内容でトレーニングを行いますが、反復練習を徹底することで「できる」状態から「いつでもできる」状態へと高めていきます。また、ただの反復練習とならないように、保護犬と受刑者のペアリングを考慮し、犬による違いやコツなどを学ぶことができるよう、練習条件を変えていきます。
2月で生後およそ5ヵ月になったリコちゃん。1月の初訪問時から2kg増え、体も大きくなりました。受刑者に「リコちゃん、先月と比べて成長したでしょ?」と聞くと「大きくなりましたね」と改めて実感していました。リコちゃんは、おやつも人も大好きで、トレーニングには精力的です。しかし、まだ子犬のリコちゃんはおやつをめがけてピョンピョンと飛びついてきます。落ち着かせようとすぐにおやつをあげると「ジャンプするとおやつがもらえる!」と逆効果になりかねないので、ぐっと堪えて上手に誘導する必要があります。ドッグトレーナーからのアドバイスをもとに、練習を積み重ねます。まだ子犬ですが、しっかりとハンドラーの目や指示を聞き、自ら考えている様子がうかがえます。

今回初めて受講する受刑者は、トレーニング慣れしているヨーゼフくんとペアで基本的な内容からスタートします。「オテ」「ふせ」などの基本的なトリックであっても、ハンドラーの指示やタイミングで犬の動きは変わります。そのため、まずは犬との距離や触れ合い方やトレーニングのポイントなどを説明し、慣れてもらい、基礎トレーニングを進めました。基礎を徹底することで、犬とハンドラーの信頼関係の土台をより強固なものにできるのです。

きこちゃんの「オテ」練習と初参加のかこちゃん
トレーニングに2回目参加のきこちゃん。この日は、触ってもらうのに慣れる練習とオテの練習をしました。担当の受刑者にヨシヨシされ、その場に佇んでいました。よく見ると、受刑者の靴の上にちょこんと前足を乗せている姿がなんとも可愛い様子でした。慣れない場所でもできるように、「オテ」の練習もスタートです。受刑者が「オテ」と手のひらを出しても、しれーっと目線を外し、知らない顔をするきこちゃん。受刑者は、辛抱強くきこちゃんの様子を見ながらタイミングを見計らって「オテ」を指示します。何度も何度も試し、ようやくきこちゃんの前足がゆっくりとあがり、受刑者の手のひらにちょこんと遠慮気味に乗せました。受刑者もスタッフも「できた!」と笑顔の瞬間でした。その反面、きこちゃんは相変わらず無表情でした。

トレーニング終盤に、ハウスで休んでいたかこちゃんを出し、リードを受刑者に託しました。緊張しながら、キョロキョロと周りを見渡します。すると、そんなかこちゃんのそばに、きこちゃんがすぐに寄り添います。微笑ましい瞬間でしたが、2頭揃って速足・忍び足で壁際へ。リードを持っていた受刑者たちも、そのまま連れていかれ隅っこに。かこちゃんが環境に慣れるまで、見つめすぎず、優しい声掛けをして、そのままそっとしておいてもらいました。しばらくすると、受刑者からもらったおやつを食べていたきこちゃん。これまでの訪問時に、受刑者からもらったおやつを食べる姿を見ることはほとんどありませんでしたが、この日はかこちゃんがいたからか、環境に慣れてきたのか、おやつをしっかりと食べていました。

トレーニング成果の発表
それぞれ順調にトレーニングができていたので、一組ずつ練習した成果を披露します。どのペアも、練習を重ねたトレーニングの成果をを皆の前で見事に披露し、ちょっとした自信をのぞかせながらも、控えめな様子で席に戻っていきました。
練習を重ね、ようやくできた「オテ」を披露しようとするきこちゃんペアですが、なかなかできません。「オテ」と、手のひらを出しますが、きこちゃんがプイっと違う方向を向いてしまいます。周囲が辛抱強く見守る中、何度か試み、ついにちょこんと左足が上がりました!室内が、拍手と笑顔と温かな空気に包まれていました。初めての訪問では、銅像のように固まっていたきこちゃんですが、この日の訪問ではオテができ、おやつもしっかりと食べられるように。小さい一歩ながらも、大きな成長を感じられる一瞬でした。

披露後、この日テーマである「カーミングシグナル」に関して、トレーニング中に見られることがあったか質問したところ「首やお腹を掻く動作があった」など、受刑者たちから答えが。トレーニング中に犬たちの動きの観察ができていたようで、犬という動物に対する理解が深まってきていることを実感することができました。
プログラム受講後の受刑者たちの声
受刑者たちの受講後の感想文を一部抜粋で、以下ご紹介いたします。
・最初は言うことをきいてくれませんでしたが、回を重ねるごとに、緊張も段々とほぐれてきてリラックスして犬たちと触れ合うことができてきて、言うことも聞いてくれ、お互いにリラックスして、このプロジェクトに参加できているのではないかと思います。
・今回からみーくんの姿がなく、寂しい反面、飼い主が無事に見つかり、嬉しくもなりました。本当に心の底から幸せになってほしいです。ですが、他の犬たちが今幸せじゃないかというと、それは間違いで、回を重ねるごとに思うのですが、本当にスタッフの方々が犬たち全体に、平等な愛情があり、優しく接して、犬たちもそれに応えようとしているのが伝わってきます。
・自分も回を重ねるごとに、困っている人や動物に何かできることはないだろうかと、最近感じるようになりました。今までこんなことを想ったこともなくて、自分でも不思議に思います。
・今回は、カーミングシグナルについて学びました。犬が見せる何気ない仕草にも、ひとつひとつ意味があると言うことを知り、これからは今まで以上に観察し、犬の気持ちを読み取っていきたいと思いました。今日、目にしたサインはあくびです。これまでの社会生活で見てきた犬が同じようにあくびをするところは何度も目にしていたので、特段、新しい発見をした、ということはありませんでしたが、受講中に学んだ「落ち着こうとしている」「一度待ってあげる」という知識のもと、見守ってあげることができました。これは、相手が犬であっても同じことが言え、何でもかんでも自分のペースで進めようとするのではなく、相手の表情や仕草を読み取りながら、相手の負担にならないことを考えて接することが、関係構築には大切だと感じました。
・今日はきこちゃんが初めてフードを食べてくれました。加えて、これまで一度も合わなかった目が合うこともありました。撫でている時も、身を寄せてくれ、お手にも何度か成功していたので、今日一日だけで、とても進歩した気がして嬉しかったです。
・かこちゃんがケージから出た瞬間、それまで全く動かなかったきこちゃんが歩み寄っていたのがとても印象的で、やはり人も犬も、血のつながった家族に安心感をおぼえることは同じなのだと感じました。
・非日常の生活をしている中で、犬のような、良い意味で感情を読み解くことが難しく、誰に対しても平等に接してくれる犬と触れ合えることは、今の生活には、必要なことなのかなと思いました。僕の性格は、内気で、人と仲良くなるまでは、一線引いて関わったり、仲の良いフリをその人の前だけしてしまうことが多く、動物を見ていると、小さい時の自分や小さい子どもを思い出したり、想像してしまいます。純粋な心で、色々なものに興味を持ち、色んなことに挑戦していた時を思い出し、今は、自分にはそう言うものが欠けているのかなと思います。(中略)人の顔色をうかがって行動をしたり、話したりしていて、空気を読まないといけない時や、しっかりしないといけない場面では、必要なことかもしれませんが、雑居にいる間や、工場の休憩中などは、多少、気を緩めて色々な人と話たり、喋りかけたりして、興味を持つことは悪いことではないと思うので、少しは、昔の純粋だった頃の僕のように、人や物事に対して関わっていければと思いました。
・みーくんともう会えないと考えたら寂しい気持ちにはなりますが、新しい飼い主さんと幸せに暮らして欲しいと願っています。みーくんに対してしつけを何回かしているので社会のために少しは役に立てたのなら嬉しいことです。
・社会でまともに働いた経験のない自分にとっては、大きな体験であり、これからどうしていくのかを決めるにあたって良い材料になると思います。
・プログラムで学ぶことができた相手の気持ちを考えるということは人の気持ちを考えるということにもつながっていきます。人の気持ちを考えない行動が犯罪につながっていると思うし、今回起こした事件も人の気持ちを考えていなかったです。再犯のないように人の気持ちを考えてから行動を起こすようにします。
これまでの保護犬育成プログラムリポートはこちら
姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第1回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第2回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第3回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第4回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第5回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第6回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン
【第6回 姫路プログラム】秋山さんのPFLJ事前訪問 | ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン



