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【第4回 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム

法務省 近畿矯正管区と姫路少年刑務所と連携し、受刑者が保護犬の人馴れやしつけを行う「保護犬育成プログラム」を今年8月からスタートし、11月に4回目の訪問を行いました。受刑者に保護犬の育成に関わってもらうことで、責任感の醸成、自己肯定感や社会的スキルの向上につながり、社会復帰と更生を支援することを目的としています。PFLJにとっても初めての取り組みですが、これまで行ってきたドクタードッグ活動(動物介在活動)や教育活動の知識と経験を活かし、月に一度訪問を行っています。

***プログラムの目的、保護犬へのメリットなどの概要はこちらから***

第4回の講習のテーマは「保護犬・犬のお世話とケア」です。まずは、訪問に連れて行った保護犬ヨーゼフくん、ルカくん、きこちゃん、みーくんが保護された経緯を受刑者たちに改めて説明します。そして、ペット動物たちが保護される理由、ペット動物たちを幸せにするために私たちができることなどをお話しました。その中で、大切な2つのポイント「しつけ」と「健康管理」に関して、第4回は理解を深めてもらいます。

まずは、「しつけ」です。なぜしつけが必要なのか。しつけとは、賢い犬にするだけが目的ではなく、「人と暮らすためのルール」を教えることによって、人と犬との生活がより良くなり、共に尊重し合う関係を築けるようになります。これまでの訪問では、おすわり・おて・おかわり・ふせ・ヒールなどの基礎的なトレーニングを行ってきました。今回は飼い主と犬との絆を深める一歩踏み込んだ内容にチャレンジしていきます。

簡単なレクチャー後、受刑者たちにヨーゼフくん、ルカくん、みーくんのリードを渡し、早速トレーニングを始めます。保護犬たちと受刑者は、1ヶ月ぶりの再会でしたので、まずは基礎的なトレーニングからスタートです。おすわり、おて、おかわりなどを行い、お互いに感覚を思い出していきます。保護犬たちは、落ち着いた様子で、基礎トレーニングを行い、受刑者からご褒美のおやつをもらっていました。

前回の訪問では、少し苦戦していたヒール(人の横について歩く)も何度か行います。おやつが大好きなヨーゼフくんは、ヒール中におやつ欲しさにグイグイとハンドラーを押しながら歩いてしまうことがあります。ヨーゼフくんを担当した受刑者も、ヨーゼフくんに少しずつ押され真っ直ぐに歩くことができていませんでした。ドッグトレーナーからアドバイスを受け、おやつを持つ位置や高さを工夫し、何度か練習を重ね、少しづつ感覚をつかんでいきました。

基礎的なトレーニングのおさらいができたところで、ステップアップしたトレーニングを行います。「ドッグカフェ」と「のせて」です。犬が人のそばで落ち着く動作のため、犬と人の信頼関係の構築になるトレーニングです。

「ドッグカフェ」は、座っているハンドラーの足元で落ち着く体勢です。犬が椅子と人の足の狭いところに入るため、ハンドラーとの信頼関係が必要です。みーくんはスムーズにできていましたが、ルカくんは少し緊張した様子でなかなか膝下をくぐることができません。おやつを使いながら、何度も練習します。ようやく足の下に入ることができましたが、どこかへっぴり腰で、お尻が残っている状態です。次回への課題ですね。ヨーゼフくんはその体の大きさから、かなりの幅が必要です。ヨーゼフくん担当の受刑者は、浅めに椅子に座り、ヨーゼフくんのためのスペースを作ってあげていました。足元で上手にドッグカフェできているヨーゼフくんの姿を見て、嬉しそうな表情を見せていました。

次は「のせて」です。「のせて」は「あなたの上に乗せて」という意味で、犬が自らハンドラーの足の間に入りおすわりする動作です。シンプルな動作に見えますが、リードの持ち方や、どのように犬を誘導するかなど、ハンドラーの工夫が必要な動作です。

実際に、受刑者たちはリードが絡まったり、犬の誘導に手こずったり。そんな様子を見せながらも、練習を続け、犬たちが足の間から出てきて、上を見上げて、目を合わせてくれた時の嬉しさはなんとも言えないものです。トレーニングの難しさや楽しさを感じていただける時間になったかと思います。

ステップアップしたトレーニングの後は、犬の健康管理に関して学びます。犬は自分の体に異変を感じていても、飼い主になかなか伝えることができません。ペットの健康を守るためにできることは、毎日の健康チェックです。ブラッシングや日々のスキンシップの中で、犬の体の変化に気がつくことがあります。そんな些細な変化が、病気の早期発見や病気の予防につながるのです。

今回は受刑者たちに、犬の健康管理のうちのひとつ、ブラッシングを体験してもらいました。ブラッシングは、毛並みを整えるだけでなく、血行促進や埃や汚れなどの除去、スキンシップ効果などもあります。PFLJでは、犬の毛質や毛量などによって、ブラシを使い分けています。今回は、簡単に使用でき保護犬にも優しいラバーブラシを使用しました。

トレーニング中はハウスで待機していたきこちゃんはブラッシングから参加です。ハウスからそろりと出てきて、周りを落ち着いた表情で見渡していました。前回と比べ、室内に人が多かったため緊張している様子でしたが、パニックになることはなく、じっとその場で立っていました。

受刑者たちは、丁寧に程よい力加減で保護犬たちをブラッシングしてあげていました。トレーニング中はモジモジした姿を見せていたルカくんも、ブラッシング中は気持ちよさそうな笑顔を見せてくれていました。きこちゃんも表情ひとつ変えることはありませんでしたが、受刑者に身を預けて、ブラッシングされていました。

最後に、自由なふれあいの時間です。きこちゃんにおやつをあげようとチャレンジしてみる受刑者がいましたが、相変わらず食べることができませんでした。次回は食べることができるのでしょうか?ルカくんで「のせて」を練習していた受刑者ですが、ヨーゼフくんとやってみたかったのか、ふれあいの時間に挑戦している姿も。楽しそうなヨーゼフくんの姿に、このプログラムを通して、保護犬たちが担うことができている役割を改めて考えさせられました。

受刑者たちの受講後の感想文を一部抜粋で、以下ご紹介いたします。

・リードを握る手や歩くスピードなど、犬によっても対応が変わってくるので、これらのことも頭に入れながら取り組んでいきたいと思います。まずは犬に信頼されるように努めていきたいです。

・(ドッグカフェものせても)どちらも人間の下に犬を連れてくるもので、ルカくんからしたら慣れない環境でよく知らない相手だからか、緊張しているように見えたが、おやつの力を借りて上手にやってくれたからうれしく思う。今後、保護犬育成プログラムを重ねていくにつれて、心を許してくれたらいいなと思う。

・きこちゃんは震えていておやつにも興味を示さず、人慣れしていない子が人を信用してくれるようになって、飼い主が見つかれば犬の保護活動をしている人にはたまらないだろうと思う。月一だから大したことはできないが、その過程で小さな役に立てたら嬉しい。

・人にも十人十色と呼ばれるものがあるように、犬にも、もちろん犬種に始まり、体型や育ってきた環境、性格がまるっきり違っていることに気がつきました。ルカくんはおやつが貰えそうな時は自ら進んで寄ってきますが、特に用がなければ少し撫でられることも嫌がり、人とは距離を置いているような印象を持ちました。距離を置かれるということは、少し寂しい気もしますが、それは人と同じように様々な性格が存在している以上、仕方のないことで、犬も人も精神が宿っていて気持ちがある生物であるということを理解した上で、相手に合わせる、決して自分の思い通りにしよう、なんて考えてはいけないと感じました。

・「保護犬である彼らには、待ってくれている家族もいないし、社会的な役割もない」という言葉には非常に考えさせられました。今関わっている保護犬たちは少なくとも、社会復帰を控えている私たちに様々なことを教えてくれているという存在であることに対して、私自身はとても感謝しています。

・刑務所にいるのに、保護犬を育成していることに対してうれしいです。少しでも社会の役に立てれば良いと思いますし、環境に感謝しています。