
法務省 近畿矯正管区と姫路少年刑務所と連携し、受刑者が保護犬の人馴れやしつけを行う「保護犬育成プログラム」を今年8月からスタートし、10月に3回目の訪問を行いました。
受刑者に保護犬の育成に関わってもらうことで、受刑者の責任感の醸成、自己肯定感や社会スキルの向上から、社会復帰と更生へのサポートになります。姫路少年刑務所はもちろん、近畿地方では前例がなく、PFLJにとっても初めての取り組みです。
***プログラムの目的、保護犬へのメリットなどの概要はこちらから***
***第1回 訪問リポート はこちら、第2回 訪問リポート はこちらから***
3回目は、犬の生態や習性について学び、ステップアップしたトレーニングを行うプログラムを開催。前回と同様、ヨーゼフくん・ルカくん・きこちゃん・みーくんを連れていきました。保護犬たちも場所に慣れた様子で少年刑務所へと入っていきます。

講習ではまず、ルカくんが子犬だった頃の写真を元に、犬の生態・習性・成長過程などスライドで説明していきます。犬の年齢の数え方や、心と体の成長について、犬にも思春期や反抗期があること、社会的動物の行動習性など、少し専門的な内容でしたが、身近に感じてもらえるよう目の前の保護犬たちのエピソードや特性などを交え話しました。

そして、ペットは責任と愛情をもって迎えることが重要ということを理解してもらうために、「責任」の一面である「費用」や「時間」についてもお話ししました。犬を迎えるにあたり、今後その動物と暮らすことになる年数や世話にかかる費用や時間、介護が必要になったときのことなど、考えておく必要があります。犬を飼うということは、喜びや癒し、可愛さだけでなく、責任と義務が伴うことを具体的な数字とともに説明しました。

犬という動物の生態や習性、飼育への責任などの理解を深めたところで、実技の時間です。2人1組で保護犬1頭を担当してもらいました。前回までは、スタッフがメインでリードを持ち、練習する時だけ受刑者に渡していましたが、今回は最初から受刑者に保護犬を託します。受刑者同士で、ハンドラーを交代しながら練習を進めていきました。トレーニング内容は前回と同様でおすわりなどの基礎トレーニングと横について歩く練習です。シンプルで簡単に見えるような項目ですが、保護犬たちの集中力、アイコンタクト、止まる位置など、細かい点を意識し「できた」の精度をあげていきます。

2回目にお伝えした「甘やかす」と「可愛がる」のポイントも、再確認です。犬が人の指示を聞いたら、しっかりと褒め、おやつを適切な量とタイミングで与えます。今回のプログラムは、精度やメリハリを意識し、少し気を引き締めながらトレーニングを行いました。受刑者たちは、そんな雰囲気に応えてくれるようにしっかりと集中し、順調に一つずつこなし、保護犬たちと仲を深めていました。

ヒールの練習では犬を横につけさせたまま、前回から距離を伸ばし、部屋の中を歩く練習をしました。他人のトレーニング風景もみて勉強できるよう、一人ずつ全員の前で歩きます。他の人がどうやっているのかをみることも、勉強の一つです。どんなところが上手にできていて、どんなところの練習が必要か、見ながら学べることも多くあります。終えた人に拍手をし、賞賛するという雰囲気も自然とでてきていました。

トレーニングを終え、最後は保護犬たちとリラックスしながらふれあいタイムです。きこちゃんもふれあいに参加するため、ハウスを開けると、ゆっくりそろーりと出てきました。受刑者たちもきこちゃんの登場に嬉しそうな表情です。ある受刑者は、声色が変わり、優しい口調できこちゃんに話しかけていました。適度に距離を保ちつつも、きこちゃんとふれあいをしたい様子。最終的に、きこちゃんをお膝の上に乗せて、コミュニケーションを図っていました。「慣れない場所は怖いよね〜」ときこちゃんの気持ちに寄り添う言葉をかけている受刑者もいました。相変わらずおやつを食べられないきこちゃん。ですが、しっかりとおやつの匂いをチェックしていました。次回の訪問では、受刑者からもらうおやつを食べられるでしょうか。

保護犬たちへの触り方も優しく、受刑者たちの表情はリラックスしていることが伺えます。そして、保護犬を通して、受刑者同士の会話やスタッフとの交流も少しずつ増えました。簡単な感想や、質問を聞いてきたり、スタッフの説明や話を興味深く聞いている姿も多く見受けられました。受刑者たちの受講後の感想文を一部抜粋で、以下ご紹介いたします。
・自分自身が真剣に正面から接していけば、犬も応えてくれ、通じ合った気がし、嬉しい気持ちになりました。これは、人に対しても同じことが言えると気付きました。相手と合う合わないもわからないまま、第一印象だけで避けるのではなく、真剣に正面から接すれば、良い面が見えてくるかもしれないという気持ちを大切にしていきたいです。
・犬の年齢や犬を飼うのに必要な資金など知ることができ、ペットを飼うにはそれらを理解した上で決めないといけないと感じさせられました。犬の平均寿命が伸び、人間と同じく100歳時代ならぬ、20歳時代が来るといいなと思いました。
・いざトレーニングをしてみると、賢い動物だと感じました。ヒールの練習はみんなの前で発表する形で行いました。ペアだった保護犬は緊張せず、1回で成功でき、素直に嬉しかったです。
・人間社会を恐れていたきこちゃんとの関わりは、こんな子がいるのだという衝撃と同時に、これまでの社会生活の中で触れ合ってきた犬たちが当たり前ではないという学びや考えの変化がありました。自分のような人間一人ができることは限られていると思いますが、今回のプログラムを通して、人の身勝手や軽はずみで無責任な行動で不幸になる子が増えるということを自分の中で認識として得ることができたことは、小さなことかもしれませんが自分の中で大きな収穫になりました。
このプログラムでは、受刑者と保護犬の心の成長を目的としています。3回目を終えて、少しずつ表情や言葉、行動などの変化が双方に見られたプログラムとなりました。




