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【第2回目 実施】姫路少年刑務所・保護犬育成プログラム

法務省 近畿矯正管区と姫路少年刑務所と連携し、受刑者が保護犬の人馴れやしつけを行う「保護犬育成プログラム」を今年8月からスタートし、9月に第2回目の訪問を行いました。

受刑者に保護犬の育成に関わってもらうことで、受刑者の責任感の醸成、自己肯定感や社会スキルの向上から、社会復帰と更生へのサポートになります。姫路少年刑務所はもちろん、近畿地方では前例がなく、PFLJにとっても初めての取り組みです。

(プログラムの目的、保護犬へのメリットなどの概要はこちらから)

第2回目の訪問は前回と同様、保護犬ヨーゼフくん、ルカくん、きこちゃんを連れていきました。1ヶ月ぶりの訪問でしたが、保護犬たちは緊張している様子は少なく、リラックスしている表情も見受けられました。加えて、新たに保護したチワワのみーくんも参加です。人懐こくて、誰でもすぐに仲良くなれる みーくんですが、PFLJで保護して間もないため、トレーニングを始めたばかりです。犬種も大きさも年齢も性格も全く異なる4頭を連れての訪問でした。

受刑者たちは、前回訪問した保護犬たちの名前を覚えてくれていたようで、名前を呼びながら保護犬たちにも挨拶してくれました。一人の受刑者は嬉しさのあまり、ルカくんの背後から触れ、ビックリしたルカくんに吠えられる場面も。ルカくんに怖がられ、ショックそうな様子でしたが、すぐに仲直りでき、ルカくんもご機嫌のお顔に戻っていました。

第1回目の訪問では、保護犬たちと挨拶し、ふれあい、簡単なしつけや犬の感情を学び、保護犬たちについて知ってもらうことができました。(第1回目のリポートはこちら)第2回目は、参加受刑者一人一人に保護犬たちとトレーニングを行い、しつけの重要性を理解してもらい、その難しさを経験してもらえるよう、ステップアップした内容のトレーニングを盛り込みました。

しつけを始める前に、なぜしつけが必要なのか、しつけのポイントについての座学です。しつけとは、賢い犬にするだけが目的ではなく、『人と暮らすためのルール』を教えることです。問題行動を予防することによって、人と犬との生活がよりよくなり、共に尊重し合う関係を築けるようになります。

しつけを行う上で、大切なポイントがあります。それは、言葉やジェスチャーで「ほめること」です。人の笑顔、「お利口さん!できたね!」という声、そして、大好きなおやつをもらえることは、犬たちにとってはうれしいご褒美です。「〇〇をしたら、いいことがある!」と犬が前向きな思考になり、モチベーションにつながります。そして、何かができるようになっていくと、犬たちも自信がついていきます。反対に、しつけにおいて気をつけなければいけないのが、怒ったり、ネガティブな言葉の使用です。犬は怒られると萎縮し、人に対して恐怖心を覚えたり、ネガティブな言葉から自信を失い、人への不信感につながることもあります。これらのポイントを頭に入れてもらい、いざ実践です。

今回は7名の受刑者が参加し、ヨーゼフ班、ルカ班の2班に分かれて行いました。きこちゃんとみーくんはハウスで待機です。まず手始めに、ハンドターゲット、おすわり、ふせ、おて、おかわり、ツイスト(時計回りに犬が回る)を練習しました。

トレーニングを進める中で、「お手本を見ていたけど、実際に自分がやってみると難しい」という声があがりました。「犬ができていない」ではなく、「自分が指示をできていない」との気づきがあり、どうしたらできるようになるのか、考えながら何度も繰り返し練習します。受刑者同士でも「あーでもない、こーでもない」と意見し合い、中には、実戦に入る前に受刑者の1人がルカくん、もう1人の受刑者がトレーナーに扮し、シミュレーションを行っている姿も見られました。ドッグトレーナーから教えてもらったポイントを実践し、繰り返すうちに、できるようになったこともあり、小さけれど確実な達成感を味わっていました。受刑者たちは1回目と比べ、その場で感じたことをスタッフにより話してくれるようになりました。

第1回目もそうでしたが、保護犬たちがかわいすぎで、おやつをたくさんあげてしまう場面が多く見受けられました。保護犬たちが指示とは違うことをしたり、トレーニングができていないのに欲しそうだからあげる、といった受刑者も。「かわいすぎて、ついついあげてしまう〜」と本人にも自覚はあるようです。

そこで、「可愛がる」と「甘やかす」の違いの話をしました。犬たちが欲しがるから、可愛いからと必要以上におやつを与えてしまうことは、甘やかしにつながってしまいます。人の指示を聞かなくてもいいと、上下関係が崩れてしまったり、長期的にみると、必要以上のカロリー摂取になり、肥満や病気を引き起こす可能性もあります。相手のことを想い、愛情を持って接することが、可愛がるということです。少し難しい内容でしたが、熱心に話を聞いていました。

基礎的なトレーニングも上手にできてきたので、ステップアップし、ヒール(横について歩く)練習を行いました。簡単に見えがちですが、犬を横につけて歩く、止まって座って待てさせるという一連の動作には、コツと練習を要します。1日で簡単にできるようになるものではないため、何度も何度も練習しなければいけません。受刑者たちは、交代しながら練習し、できた、できない、もう少し、などそれぞれ次回への課題を見つけていました。

最後は、みーくんとかこちゃんも参加し、ふれあいの時間を設けました。前回、受刑者の膝にもたれかかっていたきこちゃん。なんと今回も同じ受刑者の近くにいくと、自ら膝の上にもたれかかっていました。その姿に、受刑者もスタッフも驚きと、笑顔が溢れました。優しく撫でてもらい、表情は変わらずとも、前回ほどの緊張は見られませんでした。きこちゃんも様々なことを経験し、少しずつ成長しています。きこちゃんの成長を受刑者も感じられているようでした。

ずっと尻尾を振って元気いっぱいのみーくん。撫でてもらい、おやつをもらい、とてもご機嫌な様子でした。基礎的なトレーニングはできるみーくんですが、実はおかわりができません。受刑者たちは、「誰がはじめにおかわりさせるかな?」と、次回の課題と挑戦に胸を膨らませていました。

第2回目の訪問では、トレーニングの重要性や難しさの学びを通して、保護犬への更なる理解を深めていただきました。褒める時に声が出ていなかった受刑者も、トレーニングを通してしっかりと褒めることができるようになったり、突然触って保護犬に怖がられ、その後は上手に触れるようになったり、自分の指示を保護犬が聞いてくれ動いてくれたり、と。小さいながらに、「できた」という達成感があったと思います。受刑者からいただいた感想文には、2回目で学んだことや感じたことなどがしっかりと書かれていました。

一部抜粋で、以下ご紹介いたします。

・ルカくんが以前より気を許してくれていたように感じました。きこちゃんも以前はおやつを食べてくれなかったが、今回は少しだが食べてくれました。

・犬たちとの関わり方の指導を受け、できたらほめたり、おやつをあげて、怒らないようにするなど、一つ一つに理由があって、動物の世界の深さに感心した。

・犬とコミュニケーションをとる際には、人間側が落ち着いて心開くように接することで、犬に安心感を与えることができて、より近い距離感(物理的にも精神的にも)でコミュニケーションをとることができるという点でも、人と犬は共通するなと感じました。

・相手の気持ちを理解し、それを深めることで、相手の立場に立って物事をみることにつながり、より客観的に自分の行動、それにより相手が感じることなどを見つめることができるようになるのだと思いました。

・犬は感受性が豊かで、愛情を持って接すれば自然と心を開いてくれるかなと考えていましたが、そんなふうに簡単にはいかない過去や育ちの環境や背景があるのだなと改めて考えさせられる時間でした。

・人間の都合で不幸になる動物が1匹でもいなくなることを心から願います。

・きこちゃんが尻尾をあげていてくれたことはとても大きな一歩じゃないのかと思いました。これから会う回数を重ねて、もっと仲良くなり、「人間は怖くないんだ」と感じて成長してもらいたいなと改めて感じました。そして、僕自身も。何か、癒しを感じ、感動をもらい、一緒に成長して行けたらいいなと思います。

・今後もこのプログラムを通して、人間と動物の違い、どう付き合って行けばいいのか、改めて考え反省し、一緒に成長して行けたらいいなと思います。チワワのみーくんはとても小さく、その無邪気な笑顔が可愛かったです。次回はみーくんのトレーニングを頑張ろうと思います。

次回の実施報告もHPで更新いたします。