認定特定非営利活動法人ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン

去勢・避妊の促進

避妊・去勢手術をした方が
よいかどうか
~獣医学的側面から~

甲東動物病院 尾添雅文

一昔前、犬を飼うといえば屋外飼育が当たり前で近所には野良犬もいたために、結果として飼い主が望まない犬の妊娠の機会が数多くありました。そのために我々獣医師は、望まない妊娠の予防を目的とした避妊・去勢手術を推奨してきました。
しかし、現在都市部においては屋内飼育が主流となり、野良犬も激減していることから、望まない妊娠の機会が減少しているため、「子供を作らせない」という目的のみで手術する方は少なくなっています。
近年では、繁殖させない目的以外にも病気の予防効果やストレスの軽減、問題行動の抑制といった避妊・去勢手術の有用性が報告されています。これらの観点も含めて、繁殖の予定のない犬には避妊・去勢手術をお勧めしています。
以下に避妊・去勢手術の利点と問題点を挙げましたので、愛犬に避妊・去勢手術を判断する際の参考にして頂けると幸いです。
飼い主様がどのような利点に期待して避妊・去勢手術を行うのか、その目的はお家によって様々です。
ただ「とにかく避妊手術をしましょう」ではなくて、「どうして避妊・去勢手術をするのか?」その目的を明確にすることが重要です。

雌犬の場合(避妊手術)

01子供が出来なくなる

「避妊」という言葉の示すとおり、妊娠出来なくなります。

02 発情出血がなくなる

犬は約半年から1年ごとに2週間ほどの発情出血を起こします。
屋内飼育のワンちゃんの場合、お家の中を汚してしまう事がありますし、散歩に行っても雄犬が寄ってきて咬傷事故などのトラブルとなる事もあります。
発情出血がなくなることでワンちゃんの管理がしやすくなります。

03問題行動の予防・改善が期待できる

  • 発情期に関連する体調変化や偽妊娠などのストレスから解放されます。
  • 発情期に伴う問題行動(独特の大きな声で鳴くなど)を抑制できます。
  • 情緒が安定し、穏やかな状態で生活できるようになります。

04乳腺腫瘍の発生リスクを低下させる

乳腺腫瘍は雌犬に最も一般的に認められる腫瘍で、約50%が悪性といわれています。
避妊手術を初回発情前に行うと、手術していない犬と比較して乳腺腫瘍の発生リスクが0.5%に低下し、初回発情後では8%になるとの報告があります。つまり、なるべく早いうちに避妊手術をした方が乳腺腫瘍になりにくい、ということです。

05子宮・卵巣などの生殖器系疾患の発生リスクを低下させる。

避妊手術で子宮と卵巣を摘出しますので、それらの臓器に由来する病気(子宮蓄膿症や卵巣嚢腫など)の予防を期待する事もできます。

注意)避妊手術の術式は各施設によって異なります。(卵巣のみを摘出する方法など)

雄犬の場合(去勢手術)

01他の雌犬に子供を作らせない

未去勢の雄犬が逃げてしまうと、他所の雌犬を妊娠させてしまうことがあります。
また、多頭飼育している環境においては無秩序に子供が増えてしまいます。去勢手術をおこなう事でこれらを防ぐ事ができます。

02雄独特の行動の改善が期待できる

マーキングやマウンティング、遠吠えなどの問題行動を改善できる可能性があります。
縄張り争いや発情中の雌をめぐって、他のオスと喧嘩をするなどの本能による攻撃行動を改善できる可能性があります。
ただし、これらの問題行動や攻撃行動は犬の性質や手術時期によっては効果がない場合もあります。去勢手術はトレーニングやしつけの代わりにはならない点をご注意ください。

03雄特有の病気の予防

雄犬が高齢化すると、睾丸自体が腫瘍化したり、前立腺肥大や肛門周囲腺腫などの病気を起こすことがあります。去勢手術を行う事によってこれらの病気の予防効果が期待できます。
また、陰嚢内に精巣が下りていない停留睾丸の場合には、精巣腫瘍のリスクが高まるといわれているため去勢手術がよりいっそう推奨されます。

手術の問題点

01感情的、倫理的問題

健康な犬に手術を受けさせることについてなかなか決定できない方もいらっしゃいます。
この感情は犬を愛するが故の当然の感情です。
この大切なお気持ちを整理しないまま手術を決定しないよう心がけてください。家族の間で意見を一致させていただくことも重要です。

02全身麻酔のリスク

我々獣医師は、麻酔時の予期し得ない事態に対処できるように細心の注意を払いますが、それでも麻酔の安全を100%保証する事はできません。信頼できる獣医師に手術を依頼することはとても大切です。

03費用がかかる

手術費用は施設によって異なりますので、手術をする前に獣医師にご相談して下さい。

04太ることがある

活動性、基礎代謝カロリー量の低下などによって体重が増えることがあります。
避妊・去勢手術後に過剰に太らないように食事や運動について注意していただく必要があるかもしれません。

05問題行動予防の確実性

現在も獣医学的な検討が継続して行われていますが、避妊・去勢手術をするだけで全ての問題行動を予防・解決できる訳ではありません。
避妊手術はしつけのかわりにはなりませんが、訓練・しつけなどを行う際に安定した効果を得るために避妊・去勢手術を検討してみても良いでしょう。