法務省 近畿矯正管区と姫路少年刑務所と連携し、受刑者が保護犬の人馴れやしつけを行う「保護犬育成プログラム」を今年8月からスタートし、12月に5回目の訪問を行いました。受刑者に保護犬の育成に関わってもらうことで、責任感の醸成、自己肯定感や社会的スキルの向上につながり、社会復帰と更生を支援することを目的としています。PFLJにとっても初めての取り組みですが、これまで行ってきたドクタードッグ活動(動物介在活動)や教育活動の知識と経験を活かし、月に一度訪問を行っています。
***プログラムの目的、保護犬へのメリットなどの概要はこちらから***
第5回では、初めて受講する受刑者もいたため、前回と同様、「保護犬・犬のお世話とケア」のテーマで講習を行いました。今回も保護犬のヨーゼフくん、きこちゃん、ルカくん、みーくんを連れていきました。
姫路少年刑務所に着き、車から降りると、刑務官の方々に尻尾を振りながらご挨拶するルカくん。知っている人と認識し嬉しそうな様子でした。受刑者の待つ部屋へ向かうと保護犬たちはみんな落ち着いた様子で入ってきました。

まずは、講習からスタートです。スライドを使って、保護犬や活動について、ペット動物たちを幸せにするために私たちができることなどをお伝えしました。その中でも、大切な2つのポイント「しつけ」と「健康管理」に関して、更なる理解を深めてもらうためにも、再度説明します。

PFLJのしつけトレーニングでは、犬を「ほめる」ことを大切にしています。ほめることによって、犬が自発的にやる気になります。褒められ、おやつのご褒美をもらえることが嬉しいのはもちろんですが、喜んでいるハンドラーの姿をみることは、犬たちにとって、とてもうれしいことです。そのことからも、声・トーン・言葉を意識して、しっかりとほめてあげることを意識したトレーニングを行っています。受刑者たちにも犬たちを褒めてあげることの大切さをお伝えしました。
トレーニングのデモンストレーションのため、ルカくんは前に出ていたのですが、新しく受講する受刑者に興味津々のルカくん。匂いをチェックしたり、近くをうろうろしていました。受刑者はルカくんが驚かないように動くこともなく、じっとルカくんの様子を見守ってくれ、ルカくんも初めて会う受刑者に安心している様子でした。
講習後は、トレーニングの実践へと移ります。実践前に、椅子を動かし、トレーニングできる空間を受刑者と一緒に作ります。保護犬のお世話に参加してもらうことで、自発性と責任感を養ってもらえるよう、今回から受刑者の作業として、保護犬たち用の飲み水の準備をお願いしました。トレーニングに集中し、おやつを食べ、犬たちも喉が渇きます。保護犬たちがトレーニング中に水を自由に飲めるよう、受刑者たちに、犬用食器に水道から水を入れてもらい、足元にセッティングしてもらいました。おやつポーチを渡し、保護犬たちのリードを託し、トレーニングの準備が万端です。保護犬たちのリードを受け取った後の受刑者たちの表情はどこかしら柔らかくなっているようでした。

今回は、きこちゃんもトレーニングに参加します。これまでの訪問時のトレーニング時間は、きこちゃんはハウスの中でジッと過ごしふれあいの時間のみ参加していました。訪問も5回目となり、環境にも慣れてきていることから、きこちゃんもステップアップできると判断しました。とはいえ、いきなりヨーゼフくんやルカくんのようにトレーニングができませんが、受刑者にリードを持ってもらい、見学しながら参加します。

きこちゃんのストレスになりすぎないよう、受刑者たちの椅子の間にハウスを置き、いつでも出入りでき、休めるようにしました。早速、ハウスにそろりと入り様子を伺っている状態で、基礎トレーニングからスタートしていきます。
まずは、基礎トレーニングを行います。基礎トレーニングでは、ハンドラーの誘導や立ち位置、タイミングなどが大切で、そのコツを掴んでもらうことを目的としています。基本的には、ハンドラーは片手にリード、片手におやつでトレーニングを行います。リードで誘導するのではなく、犬が自発的に動くことができるように、まずはおやつを使って誘導します。そのため、リードを引っ張って誘導は控える必要があります。今回、みーくんを担当した受刑者は、おやつで誘導しつつも、無意識にリードでの誘導していました。ドッグトレーナーのアドバイスを受け、繰り返し練習してもらいます。

前回教えた「ドッグカフェ」も練習します。同じトレーニングを何度も繰り返すことには意味があります。教えたしつけのひとつひとつを「できた」で終わらせるのではなく、「できる」の精度をあげていくことができます。これまでできなかったしつけも練習を繰り返すうちに、偶然に「できた」ということがあります。できたきっかけは、偶然でも構いません。むしろ、偶然からできることが多くあります。最初は人の誘導やヒントがないとできないことも、最終的には「いつでもできる」になるのです。そして、達成していくことによって、犬と人の信頼関係が築かれていきます。


今回のトレーニングでは、新たに「おいで」と「マット」を練習しました。「マット」は、犬たちに落ち着ける場所を教える練習です。人と同じように、犬も柔らかいマットの上では、リラックスすることができます。そのことから「マット」という指示で、保護犬たちがマットの上に行き、座って落ち着けるように練習していきます。

はじめはハウスに入り、外の様子を伺っていたきこちゃん。他の保護犬たちは受刑者と基礎トレーニングを行っていると、顔だけぬーっと出てくることもありました。しばらくして、突然ハウスからでてきてその場で固まっていました。ハウス近くにマットを敷き、マットの上に立った状態でしたので、そのまま落ち着かせる練習として、受刑者にヨシヨシと触ってもらいました。表情を変えることなく、その場でジッとしているきこちゃん。ほんの些細なことですが、きこちゃんの成長を感じた瞬間でした。

これまでの訪問で参加受刑者たちがきこちゃんに優しく接してくれ、大きな声を出したり、無理強いしたり、リードをきつく持つこともなく、きこちゃんも安心な場所だと少しずつ理解しているのでしょう。体の緊張もほぐれてきているようで、体を触った時に全身の強張りも初回とは大きく変わっています。優しくきこちゃんに合わせた接し方をしてくれ、きこちゃんの成長に繋げてくれている受刑者たちに感謝です。
他の保護犬たちも前回と比べ、自信を持った様子でトレーニングに励んでいました。最後に、受刑者にトレーニングを一緒に頑張った保護犬たちの身体をブラッシングをし、ボディータオルで拭いてもらいます。声かけしながら、足先まで綺麗に拭いてあげる場面も。保護犬たちもブラッシングしてもらい、身体を綺麗にしてもらい嬉しそうな様子でした。身体もケアも犬たちを健康に保ってあげるためにはとても大切ということも改めて実感してもらいました。


受刑者たちの受講後の感想文を一部抜粋で、以下ご紹介いたします。
・犬のしつけは毎度のように上手くいきませんが、前回よりは上手くコミュニケーションはとれてきていると感じています。
・保護犬たちも、人間に見捨てられたり、人間の都合で振り回されたり、共感できることもありました。犬は不思議で、人間の感情とか、心の中を読み取ったりすることがあります。それは、来てくれた犬たちもそんな感じがしました。
・今回触れ合った保護犬たちは、家を無くした犬や野良犬で保護された犬たちだったので、はじめは怖がられるのかなと思いながら対面しましたが、全然怖がることなく、一緒に触れ合ってくれていて、動物のありがたみを感じることができました。動物にも心や感情があるのだと知り、触れ合う時には、温かい気持ちを持って、触れ合うべきだなと思いました。
・犬に対しては、できるだけ時間を使って、一緒にしつけのトレーニングをしていくのだということを聞いて、続けることは大切なのと、動物も人間と同じ生き物で大切に一緒に生きていくべきだなと思いました。
・次回のプログラムでは、今回よりも上手にしつけができるように工夫して取り組みます。犬はいくら餌で気を引いても、餌よりも興味が湧くものがあればそっちに気がいくということがわかりました。どうすれば気を引き続けられるか次回まで考えておきます。
プログラムをこれまで5回行ってきましたが、受刑者自身が次回への課題を考え、保護犬の育成に取り組む前向きな姿勢が感想文からも感じ取ることができました。




